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シリーズ工業炉Seminar(2)馬力とkW(その2)
重力単位系で求める搬送動力
「馬力とkW(その1)」では、馬力とkWの関係や、動力計算式に現れる「6,120」「974」といった数字の由来について説明しました。
今回の「その2」では、力をkgfで扱う従来の重力単位系による動力計算を取り上げます。重量物を床面に沿って引く水平搬送や、工業炉の昇降扉を持ち上げる垂直搬送を例に、必要動力の求め方やモータ容量の選定について説明します。
また、コンベア搬送を例に、スプロケットの回転数とトルクから必要動力を求める方法を説明します。計算式を展開することで、「搬送速度と力」から求める式と同じ形になることを確認します。さらに、人や乗り物が発揮する馬力の目安も紹介します。
なお、今回使用する計算式は、重力単位系に基づくものです。次回の「その3」では、力をN(ニュートン)で表すSI単位系による動力計算を取り上げ、計算式や換算係数の違いについて説明する予定です。
目次
動力計算の基本は「速度×力」
その1で説明したように、仕事率は単位時間当たりにどれだけの仕事を行うかを表す量です。
直線運動の場合、その基本的な関係は次のように表すことができます。
| 動力の基本 | 動力 = 速度 × 力 |
|---|
例えば水平なコンベアで物体を搬送する場合、モータが負担する力は、主として搬送物の重量と搬送機構の抵抗によって決まります。その力に搬送速度を掛けることで、搬送に必要な仕事率を求めることができます。
一方、回転する軸の動力は、回転数とトルクの積に比例します。計算では、後述する円周率や単位換算の係数を含めます。
| 運動 | 動力を決める主な量 |
|---|---|
| 直線運動 | 動力 = 速度 × 力 |
| 回転運動 | 動力 = 回転数 × トルク |
ここからは、実際の数値を使ってそれぞれの計算を確認します。
計算式に現れる「6,120」とは
今回使用する動力の計算式には、分母に6,120という数字が現れます。
これは、その1で説明したように、重力単位系で1kWを仕事率へ換算したときの近似値に由来します。
| 1kW ≒ 102 kgf・m/s ↓ 1分当たりに換算 102 × 60 = 6,120 (kgf・m/min)/kW |
したがって、速度をm/min、力をkgfとして計算する場合には、動力は次のように表すことができます。
とすることで、動力をkWで求めることができます。
この 6,120 という数値は、重力単位系による動力の計算において覚えておく必要のある数値です。
今回の計算例では重量Wを質量の単位kgで示し、式ではその数値を重量による力のkgf値として扱います。従来の重力単位系による計算です。
水平搬送――搬送に必要な動力を求める

搬送物の重量をW、摩擦係数をμ、搬送速度をU、機械効率をηとすると、モータに必要な動力Pは次の式で求めます。
| 記号 | 内容 | 計算例 | 補足 |
|---|---|---|---|
| W | 搬送物重量 | 1,000kg | 今回の計算で想定する搬送物の重量 |
| μ | 摩擦係数 | 0.3 | 搬送機構の構造や接触面の材質・状態によって変わる |
| U | 搬送速度 | 5m/min | 今回の計算で想定する搬送速度 |
| η | 機械効率 | 0.9 | 機械や伝動機構によって変わる |
これらを式へ代入すると、
となります。
この場合、搬送物重量1,000kgをそのまま持ち上げるわけではありません。水平搬送では、搬送物を移動させるために必要となる抵抗をW×μとして扱っています。
| 搬送に必要な力 | 1,000 × 0.3 = 300kgf |
|---|
つまり、この計算例では300kgf相当の力で5m/minの速度で搬送する仕事率に、機械効率を考慮した必要動力を求めていることになります。
計算上の必要動力は約0.27kWとなるため、この例では0.4kWのモータを選定例とします。
垂直搬送――昇降に必要な動力を求める
次に、工業炉の昇降扉などを一定速度で垂直方向へ持ち上げる場合を考えます。
水平搬送では摩擦抵抗としてW×μを使用しましたが、垂直搬送では物体そのものを重力に逆らって持ち上げるため、摩擦抵抗は存在しません。
したがって計算式は、
| 記号 | 内容 | 計算例 | 補足 |
|---|---|---|---|
| W | 搬送物・扉重量 | 1,000kg | 今回の計算で想定する搬送物(扉)の重量 |
| U | 搬送速度 | 5m/min | 今回の計算で想定する搬送速度 |
| η | 機械効率 | 0.9 | 機械や伝動機構によって変わる |
式へ代入すると、
となります。
水平搬送では摩擦係数0.3を掛けていたため必要な力は300kgf相当でしたが、垂直搬送では重量そのものを支える必要があるため、この計算例では1,000kgf相当として扱います。
その結果、同じ1,000kg、同じ5m/minという条件でも、必要動力は水平搬送の約0.27kWに対し、垂直搬送では約0.91kWとなります。
| 搬送方法 | 計算上の力 | 必要動力 |
|---|---|---|
| 水平搬送 | 1,000 × 0.3 = 300kgf | 約0.27kW |
| 垂直搬送 | 1,000 = 1,000kgf | 約0.91kW |
計算上の必要動力は約0.91kWとなるため、この例では1.5kWのモータを選定例とします。
また、駆動系にカウンターウエイトを設ける場合、扉を持ち上げる際の重量による負荷は次の差で求めます。
| 計算に使用する重量 | (扉重量) − (カウンターウエイト重量) |
|---|
この差し引いた重量を基に、必要動力を計算します。
コンベア搬送の必要動力をトルクから求める
水平コンベアの必要動力は、搬送速度あるいはコンベア軸の回転数とトルクの両方からから求めることができまが、ここではトルクから求めてみます。
搬送速度を U [m/min]、コンベアを駆動するスプロケットのピッチ円直径をDmとします。ここでは、チェーンの動きをピッチ円に沿う円運動で近似します。
まず、搬送速度U からスプロケットの回転数Nを求めます。
この近似では、スプロケットが1回転すると、ピッチ円の円周長πDだけコンベアが進みます。そのため、回転数Nは次のようになります。
次に、スプロケット軸に必要なトルクを求めます。
水平搬送で必要な力はW(重量)×μ(摩擦係数)であり、その力がピッチ円半径(直径Dの半分)の位置に作用すると考えると、トルクTは次のようになります。
回転数NとトルクTから動力を求める式へ代入します。
となり、前述の搬送動力の計算式と完全に同じ形になります。
つまり、
| 直線運動として見る | 搬送速度 × 搬送に必要な力 |
|---|---|
| 回転運動として見る | 回転数 × トルク |
という違いがあるだけで、どちらも水平搬送において単位時間当たりに行う仕事を求めています。
必要動力からモータ容量を決める
ここまでの計算例で求めた値は、機械を動かすために必要となる動力です。実際に使用するモータは、この必要動力を基準として、あらかじめ決められている定格出力系列の中から選びます。
| 計算例 | 必要動力 | モータ容量の選定例 |
|---|---|---|
| 水平コンベア | 約0.27kW | 0.4kW |
| 垂直搬送 | 約0.91kW | 1.5kW |
モータには0.2、0.4、0.75、1.5、2.2、3.7kW……といった定格出力系列があり、この例では上表の容量が候補となります。
ただし、実際の設備では必要動力の大小だけで決まるわけではありません。起動時や加速時の負荷、伝達方式、運転条件、機械側で必要となる余裕なども考慮したうえで、使用するモータ容量を決定します。
搬送動力計算を整理すると
今回の計算例を整理すると、水平搬送、垂直搬送、回転軸からの計算は、それぞれ異なる式に見えても、基本となる考え方は共通しています。
| 計算対象 | 基本となる考え方 |
|---|---|
| 水平搬送 | 搬送重量 ×摩擦抵抗 × 搬送速度 |
| 垂直搬送 | 持ち上げる力 × 昇降速度 |
| 回転軸 | 回転数 × トルク |
コンベアでは、搬送速度Uから直接動力を求めることも、スプロケットの回転数NとトルクTから求めることもできます。そして式を展開すると、両者はU=πDNという関係によって同じ式になることが分かります。
動力とは「単位時間当たりにどれだけの仕事を行うか」であり、直線運動では「速度×力」で表され、回転運動では「回転数×トルク」に比例します。
この基本的な関係を理解しておくことで、設備や計算方法が変わっても、それぞれの動力計算式が何を表しているのかを追いやすくなります。
搬送動力の計算例
水平搬送と垂直搬送について、具体的な数値を用いて必要動力を計算します。
ここでは計算を簡単にするため、機械効率ηを1.0(損失なし)として計算します。
水平搬送の場合
搬送重量W=100kg、摩擦係数μ=0.3、搬送速度U=5m/minとします。
垂直搬送の場合
搬送重量W=200kg、搬送速度U=6m/minとします。
人や乗り物が発揮する馬力
馬力の大きさをイメージしやすいように、人や馬、身近な乗り物から大型の乗り物まで、出力のおおよその目安を並べてみます。 同じ種類の乗り物でも、年代や大きさ、用途、仕様などによって出力は大きく異なります。
| 項目 | 出力の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 人間 | 約0.14~1 PS | 約0.14 PSは1日の摂取エネルギーから求めた仕事率の目安。瞬間的には約1 PSを発揮できる |
| 馬 | 約0.75~15 hp | 約0.75 hpは8時間程度働く場合の目安。 瞬間的な最大出力は約15 hpに達することがある |
| 原動機付自転車 (50cc級) |
約3.7~7.2 PS | 歴代の50cc級原動機付自転車の代表例による。 年代やエンジン形式によって異なる |
| 軽自動車 | 約15~64 PS | 1950年代から2000年代までの代表的な軽乗用車の例による |
| 四輪乗用車 | 約50~280 PS | 1950年代から1990年代までの国産乗用車の代表例による。高性能車などではこれを上回る |
| 大型トラック・大型バス | 約235~410 PS | 大型路線バスや大型トラックの代表例による |
| F1カー (1980年代の例) |
約600~1,000馬力超 | 1980年代後半のF1エンジンの例。 規則や過給圧、予選・決勝などの条件によって大きく異なる |
| 旧日本軍のプロペラ機 | 約1,130~1,400馬力 | 零戦52丙型の栄21型(1,130馬力)と彗星12型のアツタ32型(1,400馬力)の例 |
| D51形蒸気機関車 | 約1,280~1,400 PS | 定格出力約1,280 PS、最大出力約1,400 PSとされる |
| ヘリコプター | 約124~3,880 shp | 小型単発機から大型双発機までの代表例。 大型機は2基のエンジン出力を合計 |
| 貨物用機関車 | 約1,700~6,100 PS相当 | ディーゼル機関車から大型電気機関車までの代表例。電気機関車のkW値はPSに換算 |
| 新幹線 (16両編成の例) |
約16,100~23,200 PS相当 | 0系の11,840 kWからN700系の17,080 kWまでの編成出力をPSに換算 |
| タイタニック号 | 46,000 hp | 2基の往復動蒸気機関と1基の低圧蒸気タービンによる総出力 |
| 戦艦「大和」 | 約150,000 SHP | 計画上の軸出力。全力公試では153,553 SHPを記録 |
※表中の範囲は、その種類の乗り物すべてについての絶対的な最小値・最大値を示すものではなく、公開資料で確認できる代表的な例をもとにした出力規模の目安です。年代、用途、仕様、測定条件などによって数値は異なります。
※PS(仏馬力)、hp(英馬力)、shp・SHP(軸馬力)は定義や示す出力が異なります。1 PS=約0.7355 kW、1 hp=約0.7457 kWです。また、人や馬の仕事率と、エンジン・モータ・推進軸などの機械出力は測定条件が異なるため、厳密な性能比較を目的とした表ではありません。
参考資料:
大日本図書「単位プラス 馬力(仏馬力)」
Institute of Physics「Why one horsepower is more than the power of one horse」
国土交通省「原動機付自転車の区分を見直します」
公益社団法人 自動車技術会「日本の自動車技術330選」
防衛省 航空自衛隊「芙蓉部隊」
Honda F1 歴代マシン資料
JR貨物「車両の開発について」
JICA「ベトナム国 南北高速鉄道情報収集・確認調査 ファイナル・レポート」
東芝レビュー「N700AとN700系新幹線電車の主な仕様」
Royal Museums Greenwich「RMS Titanic: Fact sheet」
U.S. Naval Institute Proceedings「Design and Construction of the Yamato and Musashi」
次回は、馬力とkW(その3)をお届けします。
今回取り上げた水平搬送や昇降扉、コンベアの動力計算を、SI単位系(国際単位系)を用いて改めて解説します。![]()